そこがいいのです。子どもであればその方が…
「風船魔人」（横溝正史）
（「横溝正史少年小説
コレクション⑤百蠟仮面」）柏書房
「風船魔人」（横溝正史）
（「風船魔人･黄金魔人」）角川文庫
東京に突如現れた風船魔人は、
はじめは馬を、
次は蠟人形を使って
空中浮遊の実験を行い、
市民を驚かせていた。
秘密を探ろうとした
御子柴少年は
一味に捕らえられてしまう。
風船魔人は、
次に御子柴少年を使って
実験するという…。
これは一風変わった作品です。
横溝自身のジュブナイルにも
乱歩の少年探偵団シリーズにもない
特色を持っています。
｢探偵もの｣というよりも
ほとんど｢SFジュヴナイル｣のような
色合いです。
【主要登場人物】
風船魔人
…空魔団を組織しようとする悪人。
畔柳剛三
…有名な工学博士。ガス体を研究。
ヘンリー松崎
…サーカス団団長。道化師。
ジョージ広田
…サーカス団の一員。射撃の名手。
マリー宮本
…サーカス団の少女団員。
空中ブランコ乗り。
トム高田
…空魔団の一人。
黒眼鏡の男
…空魔団の一人。御子柴少年を拉致。
池上三作
…新日報社社長。
池上由紀子
…三作の娘。空魔団に誘拐される。
山崎…新日報社編集局長。
等々力警部…警視庁警部。
三津木俊助…新日報社記者。
御子柴進…新日報社給仕。探偵小僧。
本作品の味わいどころ①
これはSFか？水素より軽い気体の発明
本作品における主要アイテムは、
密かに発明された
｢少量で高浮揚力を持つ気体｣です。
しかし浮揚力(浮力)とは
密度の差によって生じる力ですので、
空気に対しては水素以上の浮力を持つ
気体はあり得ません。
これは物理法則を超越する
｢超物質｣を発明しているのですから
SF以外の何ものでもありません。
そこがいいのです。
子どもであればその方が
ワクワクするはずです。
大人の物差しで
測ってはいけないのです。
本作品の味わいどころ②
今回の敵はマッド･サイエンティスト
多くの場合、悪巧みの目的は
美術品の強奪をはじめとする
金品狙いなのですが、
本作品における悪の首領の目的は
判然としません。
これだけの大発明を｢空魔団｣という
強盗団設立に使う割には、
その強盗団で何を盗みたいのか
一切明らかにはならないのです。
そこがいいのです。
子どもであればその方が
ハラハラするはずです。
大人の目線で見てはいけないのです。
本作品の味わいどころ③
御子柴少年が100％の活躍
本作品は、
100％御子柴少年が主人公です。
等々力警部は登場するものの、
ほとんど目立ちません。
三津木俊助も
疑問は呈しているのですが
謎解きに至りません。
御子柴少年だけが真相を見抜き、
身体を張って冒険し、
敵アジトに単身乗り込み、
空魔団壊滅に力を注ぐのです。
未成年に
これだけのことができるのか？
そこがいいのです。
子どもであればその方が
ドキドキするはずです。
大人の感覚で捉えてはいけないのです。
一風変わった面白さを持つ本作品、
少年の心に戻って味わいましょう。
※少年時代にあれだけ角川文庫の
横溝ジュヴナイルにはまっていた
私ですが、
本作品は読んでいません。
今回初めて読みました。
なぜなら本作品が収録された
角川文庫刊｢風船魔人･黄金魔人｣が
刊行されたのは1985年7月。
すでにそのときは大学生であり、
ジュヴナイルには
手を伸ばさなかったのです。
本書･角川文庫は二年ほど前、
古書で入手しました。
（2021.11.21）
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